キャリアチェンジで年収が下がる? 傾向と許容範囲
厚生労働省が全年代の転職入職者を対象に実施した『令和4年(2022年)雇用動向調査結果の概要』によると、令和4年の賃金変動状況では、前職に比べ「増加」した割合が34.9%、「減少」が 33.9%、「変わらない」が 29.1%でした。キャリアチェンジによる年収アップは見込めるものの、ほぼ同じ割合で年収ダウンの可能性もあることが分かります。これは個人の転職状況によって異なりますが、頑張って転職活動をしたにもかかわらず、年収が下がる場合があるということです。
転職を機に年収アップを狙っていた人にとっては受け入れ難いことですが、一方で10%程度の年収ダウンは許容範囲として受け入れる方もいます。では、どのような場合に年収が下がるのを許容できるのでしょうか?具体的に考察してみます。
出典:厚生労働省『令和4年(2022年)雇用動向調査結果の概要』
年収が下がるキャリアチェンジの傾向
年収は、経済的な安定や生活の質に大きく影響することから、転職先を選定する際の重要な判断基準の一つです。そのため、年収の増減は転職時に大きな影響を与えることがあります。実際に、年収が下がるキャリアチェンジは少なくありません。具体的にどのような状況が年収減少につながるのか、その背景やリスクを知ったうえで判断するのが賢明です。
ここからは、年収が下がるキャリアチェンジの傾向やその背景、要因について、実体験を交えながら詳しく解説します。
未経験の業種・職種へのキャリアチェンジ
わたし自身も当てはまりますが、未経験の職種へのキャリアチェンジは大幅に年収が下がる可能性が高いです。未経験者の採用は育成時間に時間がかかることもあり、即戦力が強みの経験者と比べて待遇が低くなります。また、40代以上の転職で未経験の業界・職種へ挑戦し、年収を維持または上げるのは難しい傾向にあります。年収だけを考えれば避けたい転職のパターンですが、自分の目標である職や求めるキャリアだった場合は、思い切って行動してみるのも選択の一つです。自身の貯蓄、生活水準などから年収ダウンの許容範囲を決めて転職活動を行うのが望ましいと言えます。
年収が上がりすぎてしまう5つの転職事例では、平均年収の高い業種や職種へ転職すると年収はすぐ上がると書きました。逆もまた然りで、平均年収の少ない業種や職種への転職は許容範囲よりも年収が下がるケースもあることを理解しておかなくてはなりません。
しかし、自分が望んだキャリアチェンジであればいいですし、転職先の会社が将来大きな成長を見込めるのであれば、リスクを取って転職するのもありでしょう。
大企業から中小企業への転職
給与水準の高い大企業から中小企業へ転職すると、年収が下がるケースがあります。なぜ大企業から中小企業へ転職を決めたのでしょうか。例えば大企業では仕事の役割が決まっており、自由な裁量権が与えられずに仕事の面白さを感じられなかったストレスが大きかったのであれば、年収が下がることよりも仕事の楽しさを取っての転職はありだと思います。
都市部から地方企業への転職
子育てや介護などの家庭の事情、ライフスタイルの変化によって、地方への転職を選ぶケースがあります。このようなキャリアチェンジでは、年収が下がることがしばしば見られます。
その背景には、地方の物価の安さが理由の一つにあります。同じ職種であっても給与水準が低めに設定されていることは珍しくありません。また、地方では求人数が限られ市場競争が少ないことから、給与交渉の余地が狭くなるのも一因です。
年収が下がるとしても、生活の質の向上や仕事のやりがいを感じる人もいます。結局のところ、メリットを感じる点が多いのであれば、地方企業への転職を視野に入れるのも一つの選択肢です。
これらは、どれもよくある年収の下がる例です。ここからは、キャリアチェンジにおいて大切な判断基準をご紹介します。
資産状況から年収が下がる場合の許容範囲を考える
年収が下がる許容範囲は、年収が下がったときのストレス以上の見返りがあるかどうかで決まると思います。
上記の例で示したとおり、年収が下がっても仕事の自由度が上がったり、自分のキャリアプランに基づいたキャリアチェンジであったりすれば、年収が下がるストレス以上に仕事の面白さを感じられて、受け入れられるかもしれません。
わたしは年収よりも、自分の時間を自由に使えるかどうかのほうが優先順位が高かったので受け入れられました。今日は頑張って働くけど、明日は全く働かないといった、仕事のペースを自分で決められるかどうかが重要だったのですが、実現できています。年収は下がってしまいましたが、会社勤めのストレスからは完全に解放され、満足しています。
年収が下がるストレスや後悔をずっと引きずってしまうようなら、おそらく次の転職をすることになるでしょう。年収が下がる許容範囲は金額以外の要素も大切なので、自分の中の優先順位をしっかり決めておきましょう。
生活水準
年収が下がることによって現在の生活水準がどのように変化するのかは無視できない要素です。
キャリアチェンジによる年収の増加と減少
厚生労働省が行った『令和4年(2022年)雇用動向調査結果の概要』の転職入職者の賃金変動状況を見てみましょう。
▼令和4年 職入職者の賃金変動状況別割合(単位:%)
年代 |
区別 | ||||
増加 |
減少 | 変わらない | |||
全体 |
1割以上増加 | 全体 |
1割以上減少 |
||
全年齢計 |
34.9 |
24.5 | 33.9 | 25.2 | 29.1 |
40~44歳 | 38.0 | 25.4 | 32.3 | 20.0 |
28.9 |
45~49歳 | 34.2 | 23.5 | 27.6 | 20.5 |
36.5 |
厚生労働省『令和4年(2022年)雇用動向調査結果の概要』を基に作成
令和4年の転職者の賃金が前職と比べて『1割以上の増加』をした割合が全体の24.5%、『1割以上の減少』をした割合は全体の25.2%でした。40代では平均して『1割以上の増加』が24.45%、『1割以上の減少』が20.25%という結果でした。キャリアチェンジで年収が10%以上下がるというケースは、決して珍しくないことが見てとれます。
出典:厚生労働省『令和4年(2022年)雇用動向調査結果の概要』
年収ダウンを受け入れやすい状態
住宅ローンや教育ローン、生命保険など、月々の支出がタイトに固定されていない状況で、貯金など生活資金がある場合は年収ダウンを受け入れやすい状態と言えます。
わたし自身がこのパターンに当てはまるのですが、介護離職をしてこれまでのキャリアとは無関係のフリーランスになった際、年収の下がり幅は50%を超えました。それでも許容範囲と思えたのは、生活費や家賃を除く月々の支払いがほとんどなく、当面生活できる貯金もあったので問題ありませんでした。
どうしても外せない月々の支出が決まっている状況であればあるほど、少しの年収減少でさえ許容することが難しくなります。転職によって年収が下がるのを許容できるかできないかは、収支状況や資産と密接に関わってきます。
年収の減少幅は、家族構成や世帯年収などによって生活への影響が異なりますので、自分の収支状況と減少幅を試算して把握しておくことが重要です。
出典:厚生労働省『令和4年(2022年)雇用動向調査結果の概要』
希望のキャリアアップが実現できる
たとえ年収が下がったとしても、それは新しいスキルや経験を得る過程であり、将来への投資と考えれば、許容できる範囲も広がります。
キャリアアップにつながるのであれば、充実感や満足感を得られる転職と言えます。目先の収入アップよりも、長期的なビジョンを持って目標のキャリアを築けるのかを判断することも大切です。
将来の年収アップが期待できる
キャリアチェンジで年収が下がるケースは、一時的かもしれません。もし自分が即戦力の人材として認められるなら、年収アップは十分に実現可能と言えます。
評価制度や会社の成長によって、将来的に昇給の余地があるかどうかを転職の判断基準として考慮することが重要なポイントです。その可能性があるのなら、年収ダウンに固執せず、将来の成功への投資として検討してみてはいかがでしょうか。
なお、転職エージェントを利用して年収アップを目指す場合は、こちらの記事も参考にしてみてください。
40代転職における資金動向
厚生労働省が公表している『令和4年(2022年)雇用動向調査結果の概要』の調査結果を見てみると、20代30代は転職入職者の賃金が『増加』した割合が『減少』した割合を上回っており、『増加』の平均は約42.6%となっています。40代のデータを見てみると『増加』した割合が約36.1%となり、20代30代と比べて低いことが分かります。
- 40歳〜44歳:賃金が「増加」した割合は38.0%、「減少」した割合は32.3%
- 45歳〜49歳:賃金が「増加」した割合は34.2%、「減少」した割合は27.6%
- いずれの年齢層でも「変わらない」割合は減少傾向
40代以降の転職市場は、選択肢が限られ、年収アップを目指す場合でも妥協が必要となるケースがあります。一方で、生産年齢人口の減少に伴い、中高年層への需要が将来的に高まることも考えられます。
改めて自分自身が年収減を許容できるのはどんなケースなのか、年収が下がる代わりに得たいものとその優先順位を考えておきましょう。
今後さらに年齢を重ねるにつれて、年収が下がること以上に求人を見つけること自体が難しくなることが考えられます。40代以降のキャリアチェンジでは、年収の増減に固執するだけではなく、個々の価値観や生活の優先順位に基づいて、幅広い視点から将来設計を考えることが重要です。
転職活動を行う際、希望年収をどのように設定すべきか悩んでいる方は、こちらの記事も併せてご確認ください。
出典:厚生労働省『令和4年(2022年)雇用動向調査結果の概要』