中途採用の即戦力は無理と思ったほうがいい理由
書類選考から面接を経て、即戦力を期待できる中途採用の人材がいたとします。
研修期間を設ける必要がないほど自社の業務とマッチしたキャリアで、入社してすぐ活躍してくれるだろうと思っているかもしれませんが、それは無理な話です。なぜ即戦力になれないのでしょう?
即戦力なんてふざけるな!
中途採用の即戦力人材が入社したおかげで、仕事の穴をすぐに埋められると思っていたかもしれません。しかし実際は、どんなに即戦力と言えどすぐに仕事を回せるようにはなりません。
例えばプログラミング言語が共通していたり、会計基準が似通っていたりする職種ならば、本当の即戦力として中途採用が活躍できる職場もありますが、それでも結果が出るまでは数か月はかかります。
なぜかというと、どんなにキャリア上で自社の業務とマッチしていたとしても、仕事の進め方は会社によって全く違うからです。たとえ前職で輝かしい業績を持っている即戦力人材であっても、自社でその業績を再現できるとは限らないのです。
新しい職場で上司や仲間の信頼を勝ち得て、その会社に合ったやり方でメンバーを招集し、プロジェクトとしての成功を収めるにはどうしても時間が必要になります。残念ながら信頼関係までは、即戦力というだけでは構築できません。
ひとつひとつの仕事のプロセスの中で、この人は評価に値する人だ、この人となら一緒にプロジェクトをやっていけると思える信頼関係があってこそ、仕事はスムーズに進みます。即戦力人材と聞いていても、うちの会社でどれくらい仕事をこなせるのだろう、どんなレベルだろうと手探りの時間はどうしても発生してしまいます。
また即戦力人材と期待をかけ過ぎると、今度は前職の仕事の進め方を持ち込んでプロジェクトを押し切ろうとするかもしれません。特にプロジェクトメンバーではなくリーダーとして転職してきた場合は要注意で、全く違う仕事の進め方を強要してしまう場合もあります。
次第にプロジェクトメンバーから「即戦力? ふざけるな!」という声があがり、プロジェクトが炎上してしまうケースはあります。
40代管理職の即戦力採用
社員の年齢構成をピラミッドで表示すると、多くの会社がひょうたんのような形になります。20代、30代の若手と、50代以降のベテラン社員が多いためにひょうたん型になってしまうのです。
就職氷河期で新卒の採用を絞ったり、景気後退局面の影響をもろに受けたりした結果、40代社員の数が少ないために起こる現象ですが、ピラミッドのいびつさを解消するために40代管理職を採用する会社があります。
ひょうたん型の年齢構成のメリットは、若手を管理職に抜擢しやすいことです。会社としてはチャレンジになりますが、40代の社員数が少ないのでやむを得ません。ただベテラン社員と若手社員の世代間ギャップが生じやすく、距離も生まれやすいために、40代管理職を即戦力として迎えて課題解決をしようとするのです。
40代の管理職の採用は、多額のコストがかかります。転職エージェント等に高い報酬を支払うためです。会社としては採用にかかったコストを早く回収したいと考えるため、即戦力で採用した人材に対して、早く結果を残して欲しいとプレッシャーをかけてしまいます。
ただでさえ、40代の管理職は不足傾向にあります。そもそも管理職を目指そうとしない人が増えているためで、40代管理職は貴重な存在ともいえます。せっかく苦労して即戦力を採用したのにすぐに辞められてしまっては、チーム全体のパフォーマンスも会社の業績もネガティブになってしまいます。
中途採用の即戦力=順応力と言い換える
では、中途採用における本当の即戦力とはどういう意味なのでしょう?
即戦力とは、新しい会社への順応力と言い換えるべきだと思います。即戦力と期待された人には、最低限の共通したスキルがあるはずです。そうでないとさすがに即戦力とは言わず、ポテンシャル採用として長い目で見ようとなるはずです。
ポテンシャル採用で獲得した中途採用者よりも、仕事を覚えるスピードは間違いなく早いはずです。そのスピード感を生かしつつ、即戦力人材が新しい会社に順応できるようなら本当の即戦力と言えます。
今の会社の上司との関係、同僚との関係、仕事の承認プロセス、システムやツールの使いこなしなど、新しい会社で覚えるべきことはたくさんあります。またミーティングの雰囲気も、会社によって全く違います。こうしたひとつひとつの仕事に必要なプロセスにすぐ慣れることができる人こそが、本当の即戦力なのです。
転職を繰り返している人材を採用する際、あまりいい印象を持っていないかもしれません。しかし、こうした新しい職場へ順応する力は、1つの会社に20年以上在籍した人よりも早いと思います。前の会社に長く在籍した人ほど、なかなか新しい会社のやり方に順応できないものです。
中途採用した人を放置しておいて、いつのまにか1か月後に即戦力になると期待するのは間違いです。最低限の研修や仕事上のフォローをしておいたほうが、本当の即戦力としての能力を発揮するまでの時間は短くなると思います。スキルではでなく、柔軟性のある人材のほうが即戦力になります。
横軸を時間、縦軸を会社への貢献度にしてグラフを描くとすると、順応力の高い人材の線は指数関数のグラフのように、ある時点から急激に会社への貢献度が上がるイメージです。
わたしの失敗談として、期待していた即戦力人材が3か月で辞めてしまった例があります。書類選考のスペックでは申し分なかったのですが、今思えば順応する力に欠けていたように思います。前の会社の仕事の進め方に固執していたためで、順応力はとても大切です。