降格は転職に不利?降格人事の理由と対処法

降格は転職に不利?降格人事の理由と対処法

規律違反や能力不足などを理由に、現状のポジションから下位へ下げる『降格人事』。減給や部署異動を伴うこともあり、その後のキャリアを左右する大きな出来事です。終身雇用が崩壊しつつある現代では、年功序列よりも実力や成果が重視され、これに応じて降格やリストラが判断される傾向が強まっています。

降格人事が実行されるケースは大きく分けて2つあります。1つ目は懲戒処分として実行される場合、もう1つは人事異動や配置転換に伴いポジションが降級される場合です。降格人事は頻繁に行われるものではないため、降格を言い渡された際にどう対応すべきか分からないという方も多いのではないでしょうか。

本記事では、降格人事が実行される主な理由や、降格人事が無効となるケース、降格になった際の対処法などを詳しく解説します。

降格人事とは

降格人事とは、部長職から課長職へ、店長職からリーダー職へ、管理職から一般社員へというように、社内の地位や役職を下げることを表します。降格人事を受けたからといって、必ずしも減給があるわけではありません。

降格を命じられた労働者は、職位や等級の降格、役職手当や基本給の減額などが考えられ、社内の立場が大きく変化します。降格を命じられる理由や原因は多種多様です。

40代・50代で管理職に就いている方も多いのではないでしょうか。業績や部下の管理など、一般社員よりも責任が重い立場にあり、待遇も異なる管理職ですが、根拠のある降格人事は一般社員と同様に行われます。

「管理職を降格させるのは違法である」という情報を目にしたことがある方もいるのではないでしょうか。しかし、実際にはさまざまな理由により管理職であっても正当な人事として降格が認められるケースも多くあります。

降格人事が実行される主な理由

降格人事を行うことは、企業が持つ『人事権』によって認められた権利です。人事権に基づき、企業は労働者の採用、異動、昇進、降格、解雇などを決定する権利を持っています。

しかし、人事権は法律ではありません。企業側の権利濫用を防ぐため、労働法や労働協約により制限が設けられています。『労働契約法第15条』により、企業側の勝手な都合で労働者を降格することは認められていないため、正当な理由をもとに企業が降格人事を行う必要があります。

降格人事が実行される際の主な理由として、大きく分けて以下の2つが考えられます。

出典:e-Govポータル『労働契約法

1.労働者の明らかな過失による降格

降格人事が実行される1つ目の理由は『労働者の過失』です。就業規則違反や職務怠慢があり指導や厳重注意を行っても改善されなかった場合は降格人事が実行されることがあります。

▼具体例

  • 就業規則違反:ハラスメント行為、機密情報の持ち出しや情報漏洩、横領や盗難といった法律に違反する行為 など
  • 勤務怠慢:無断欠勤、正当な理由のない遅刻を繰り返す、過度な職場離脱 など

2.人事異動・配置転換による降格

降格人事が行われる2つ目の理由は『人事異動・配置転換』です。人事異動や配置転換に伴い降格が行われる際は、労働者自身に過失がないケースもあります。

▼具体例

  • 現在部長職に就いている部署から他部署の課長に異動する場合
  • 異動先でのスキル獲得やキャリアアップを目的として行われる場合 など

降格人事が無効となるケース

労働契約法』により不当な理由で労働者を降格させることは違法とされています。降格人事を実行する際、企業側は降格人事の内容や理由について労働者に説明する必要があります。

また、企業側からの内容説明があっても、さまざまな理由により降格人事が無効とされる場合があります。以下では、降格人事が無効となる4つのケースについて解説します。

出典:e-Govポータル『労働契約法

1.人事権の範囲を逸脱する場合

企業が持つ人事権は、企業と労働者の間で交わされる労働契約に基づいて決められています。降格人事の内容が労働契約に含まれていない、またはまったく異なる場合には、人事権の範囲を逸脱しているとみなされ、降格人事が無効となります。

▼人事権の範囲を逸脱する例

  • 「転勤なし」として契約している労働者に対して、転勤を伴う降格を行うことはできない
  • 「技術職」を限定して契約した労働者に対して、営業職への配置転換を伴う降格を行うことはできない など

2.人事権が濫用されている場合

降格人事が人事権を逸脱していなくても、労働者が著しく不利益を被る場合や、不当な目的・動機による降格の場合など、企業が人事権の濫用していると判断できる場合には降格人事が無効となる可能性があります。

▼降格人事により労働者が著しく不利益を被る場合の例

  • 介護が必要な家族を抱えている労働者を、遠方への転勤を伴う降格を行う
  • 降格に伴い、賃金をあまりにも大幅に下げる など

▼不当な目的・動機による降格の場合の例

  • 労働者を退職に追い込む目的で業務を与えない
  • 個人的な感情による嫌がらせ・ハラスメントにより降格させる労働者を選択する など

3.就業規則に懲戒処分の種類として降格が明示されていない場合

企業秩序に違反した労働者に対する措置として、譴責(けんせき)・戒告、減給、出勤停止、降格、懲戒解雇などの懲戒処分があります。このような懲戒処分は、労働契約に基づくものであるため、就業規則にも明示する必要があります。

そのため、就業規則に記載がないにもかかわらず、懲戒処分として行われる降格人事は無効となります。

4.懲戒権の濫用となる場合

企業が従業員を懲戒処分として降格させる場合は、客観的で合理的な理由が必要です。降格の理由が社会通念上相当であると認められない場合は、懲戒権の濫用として降格が無効になる可能性があります。

▼懲戒権の濫用に当たる例

  • 労働者が重大な就業規則違反をしていない場合
  • 降格に伴う減額があまりにも多額である場合 など

降格人事を受けた場合の対処法

降格人事を受けてしまったら、まずは企業側が人事の権利を適正に行使しているかを見極める必要があります。違法な理由や扱いにより降格を受けた場合、元の地位や役職に戻す、賃金の差額を請求することが可能です。

しかし、個人が降格人事の違法性を主張しても企業に受け入れられることが難しいため、専用の相談窓口や弁護士へ依頼し、専門家とともに対処するのがおすすめです。

1.降格の理由を確認

企業が降格人事を行う場合、労働契約法によりその理由をはっきりと労働者に伝える必要があると決められています。降格人事を受けたら、落ち着いてその理由をしっかりと把握しましょう。

降格の理由が明確でない場合や、不当な理由である場合は、降格を無効にできる可能性があります。降格に根拠があること、違法性がないことを確認することが重要です。

出典:e-Govポータル『労働契約法

2.就業規則を確認する

降格の理由を把握すると同時に、就業規則の懲戒処分の種類として降格が記載されているかを確認しましょう。

懲戒処分で給与の減額を伴う降格や、遠方への転勤を伴う降格をする場合は、就業規則による根拠が必要です。懲戒処分による降格の有無、役職手当の金額、減給の判断基準などを確認し、降格人事が契約外であるかどうかを判断します。

4-3.違法な降格は窓口へ相談する

雇用契約に降格が明示されていない、不当な理由による降格などといった違法性のある降格人事を受けた場合は、労働組合や専用の窓口へ相談を申し出ましょう。

自身での解決が難しい場合や違法性が判断できない場合には、労働基準行政の相談窓口や総合労働相談窓口へ相談することをおすすめします。また、内容によっては弁護士に相談する手段もあります。

出典:厚生労働省『労働基準行政の相談窓口

4.退職・転職を視野に入れる

不当な理由で降格がされた場合、会社との信頼関係に疑問を抱えてしまったり、将来的な不安によるストレスを抱えてしまったりすることが考えられます。

降格により仕事への情熱やモチベーションを失ってしまった場合は、思い切って転職するのも選択肢の一つです。これまでの経験や培ってきたスキルを活かせる新たなキャリアを考えてみましょう。

一般的に、降格によって転職活動に不利になることは少ないと考えられています。これは、降格で役職を変更した場合でも、転職の際に降格の経緯や理由を履歴書や職務経歴に書く必要はないことが理由です。

職務経歴書には、どの期間に、どのような役職に就いていたかといった事実のみを記載します。面接で役職の変更について質問された場合には、事実を正直かつポジティブに伝えることが大切です。

降格人事と異なるPIPとは

降格人事の代わりに『PIP』を行う企業も存在します。PIPとは、「業績改善計画(Performance Improvement Plan)」を指します。

PIPでは企業から設定された期間の中で業績の改善を求められ、改善や成果が見られない場合、降格を受けることになります。リストラの手法の1つであり、外資系企業に多く見られる仕組みです。

社員に改善の機会を与えてサポートする一方、降格や解雇を検討されている段階であるため、早い段階で転職に向けて動き出したほうがよいと考える人もいます。

降格人事を受けたときは落ち着いて行動を

降格人事は今後のキャリアを左右する重要な出来事です。もし、降格人事を言い渡されてしまったら、降格の理由や就業規則を確認することが大切です。そのうえで、降格理由に納得ができない場合は、労働組合や労働基準監督署、弁護士などに相談しましょう。

降格によって「企業への信頼をなくした」「モチベーションが上がらない」「会社に居づらい」という場合は、転職を視野に入れるのも一案です。これまでの経験や身につけたスキルを見直し、新しい環境でキャリアを積み上げていく道もあります。

降格人事を受けたあとは、不安や焦りも感じるかもしれません。そのような場合は、ミドル・シニア世代のためのキャリア相談サービス『CanWill』へご相談ください。専門のキャリアコンサルタントが、一人ひとりの状況に合わせたアドバイスを行い、キャリア再構築を全力でサポートいたします。

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